北海道と言っても広いので、地域ごとに差はあるでしょうが、大なり小なりどこも大変だと思います。
今の市場のものの動きがそれを裏付けています。
東川の矢澤農園で、その現実を目の当たりにしてきました。
ずーっと続いていた干ばつのあと、一転今度は降り止まない大雨と高温が襲い、人参は割れや変形が多発していました。
今日も雨です。
転がっている人参は、畑にすきこまれます。
畑によっては、正品として出荷できるのは3割くらいだそうです。
掘り上げられた人参の多くは、その場で出荷用の袋ではなく、畑へ投げられていました。
ブロッコリーも病気が発生して悲しい状況でした。
園地を案内してくれた矢澤教祐(ノリさん)さんは、常々考えていることを僕に話してくれました。
僕らは今まで、「ものつくり」にこだわっていたけれど、今は違うと思うんです。
人農業って?
一つの例を話しますね。
僕は、「畑の終わりをどうやって終わらせるか」が最も大切だと思っているんです。
つまり、収穫し終わった後の畑の手入れです。
病気がたくさん出た畑に次の年植えた作物は、必ず何か影響が出るんです。
目の前の人参のように、病気などで正品にならない人参が畑に捨てられるとする。でも一方でとにかく目の前のもの、次の畑のものを収穫し、出荷しないといけない。そうすると、収獲の終わった畑の手入れはどうしても後回しになってしまいます。
昔はそうでした。
でもその畑の終わり方がいかに大切か気づいた時に、これじゃいかんと、収獲が終わったらすぐに畑に残渣物をすきこむことにしました。
さらには、秋に堆肥を入れる。
春に入れるより、秋に入れたほうがずっと畑がよくなる。
出来るだけ早く早く、畑の手入れをする。
でもこれって相当大変です。
みんなに口で言ってもすぐに出来ないし、やりたがらない。
だから僕はまず自分でやることにしました。
時には夜中まで一人でこの作業をしました。
来る日も来る日も。
そうすると、少しずつ人がついてくるんですね。
人に伝わって、人がついてくる。自分の考えが、思いが、人に伝わっていく。
僕達の農園は面積が広いからたくさんの人達で作業をするけれど、ベテランの人がやめたり新しい人が来たりと人は入れ替わっていく。
だからこそ、「人」が大切だと思う。その瞬間のものづくりだけでは本当にいいものは作れないと思うんです。そこまでしてはじめて「ものつくり」と言えるんじゃないかな。
そういった意味で僕は「人農業」だと思っているんです。
野菜は収穫した瞬間から「カウンドダウン」が始まります。
収穫した後から鮮度が良くなることなんてないですよね。
カウントダウンが始まってから「0」になるまでの時間をどれだけ長くすることが出来るか、いい生産者は、その時間が長いということだと思います。
そうできるために、いろんなことをやっています。
今言ったこともその一つです。
でも、こんな異常気象が毎年続くから、本当に大変ですね。
ノリさんは、決して自分がしていることを凄いとか、誰よりもやっているなどとは言わず、まだまだやらなきゃいけないことはいっぱいありますと、人懐っこい笑顔で、謙虚に話してくれました。
通り過ぎた、この前まで大根が植わっていた畑は、すでにすき込まれ整理された後でした。
情熱と謙虚さとストイックさと責任感のかたまりだなぁと思いました。
ノリさん、火傷しそうなほどに熱い男でした。
こんな思いの一つ一つが集まり重なって1袋の人参が手元に届くことを、ものの後ろにいる人の想いを添えて、多くの人に伝えていきたいと思いました。
やっぱりそれも、「人」なんだなぁ。
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