久しぶりにお会いした方のお話です。
なんとも甘酸っぱい、これ以上ないほど切ない話でした。
少し長くなるけれど、ちょっと(かなり)気取って、文章にしてみました。
でも、そんな気分にさせるお話でした。
その方は、遠い目をして静かに僕に話し始めるのでした。
大学時代のサークルの1年後輩でとても好きな娘がいて、どうやらその娘は自分の気持ちに気づいていたようだった。
長いストレートの黒髪で、どこかいつも控えめなところのある娘だった。
でもその気持ちを伝えることが出来ないまま、自分は卒業し、故郷に帰ることになった。
旅立つ日、駅のホームで仲間たちが見送る中、ずっとその娘のことを見ていたけれど、彼女は最後まで目を伏せたまま、こちらを見ることはなく、やがて扉は閉まり、列車は静かに走りだした。
卒業から一年が過ぎ、仲間たちがわざわざこんな田舎まで来てくれた。その娘も来てくれた。でも、ひとつふたつタイミングが噛みあわなくて、その時も結局何も言えないままだった。
いつでも会えると思っていた。
そして、その日から、35年が経った。
今から3ヶ月前、去年の11月にサークルの同窓会があって、その娘と35年ぶりに会うことになったんだ。
自分は60歳、彼女は59歳。
会うのが怖かった。だって35年経つんだよ。
でも、彼女は変わっていなかった。
声や話し方や雰囲気や長いストレートの黒髪は、そのままだった。嬉しかったね。
次の日、サークルの後輩がお膳立てをしていて、二人だけで会うことになったんだ。
昼少し前に、自由が丘駅で待ち合わせ。改札の向こうから彼女が来た。
本当はすぐに声をかけようと思っていた。
でも、最初の一言、「元気だった?」がどうしても言い出せなかった。
学生時代は東京だろうとどこだろうと自分の故郷の言葉で話していたのに、今は標準語で言おうか方言で言おうか、迷っていた。何でだろう?
迷っていて、迷ったまま、言い出せなかった。
結局彼女の方から聞いてきた。先輩、元気だった?と。
先輩と呼ぶのも変わらない。
自由が丘のイタリア料理屋で昼食をとっているとき、彼女が離婚していたことを知った。
店を出たあと、二人で、自分たちが通っていた学校へ行った。
35年経って、学校はすっかり変わっていた。
かつて部室があった場所の前に着いた時、彼女が聞いてきた。
「先輩、あの頃、私のこと好きだった?」
何も、何も言えなかった。
「うん」の一言が言えなかった。
頷くことも出来なかった。
初冬の日暮れは早い。
夕方5:00を過ぎるともう真っ暗だ。
自分は渋谷駅で先に降りた。
今度は、自分がホームから彼女を見送る立場だった。
列車の扉が閉まる。
ずっと彼女の目を見ていたけれど、彼女は35年前のあの日と同じように、最後まで目を伏せたままだった。
離れ始めた列車は、どんどん遠ざかっていって、見えなくなった。
・・・・・・。
その方は、もう二度と彼女と会うことはないだろうと、寂しさと不思議に満ち足りたような何とも言えない表情で、自分の物語を閉じるのでした。
いやー、甘酸っぱい!
いい話やなぁ。。。
普段は、そんなウブな面なんてあるものか!というほど豪放磊落な方なのです。
僕にはそんな話ないなぁ、これからもないだろうなぁ、これからそんなことあったら大変なことだなぁ、まあどうせあり得ないからそんな心配も必要ないけどなぁ。
人生っていろいろあるんだなぁと、まるで映画を見終わったような気持ちになったのでした。
生涯を通じて 言いそびれる言葉もある
君の背中 見つめながら 胸が苦しくなる
それぞれの時代が行き ときどき泣きたくなる
でも きっと これでいいのだ
これでいいのだ
(ハッピー・エンディング)
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